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東京高等裁判所 昭和53年(行コ)6号 判決

東京都墨田区東向島二丁目三〇番九号

控訴人

小島三郎

右訴訟代理人弁護士

榎本武光

馬上融

同所七番一四号

被控訴人

向島税務署長

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被控訴人

国税不服審判所長

右被控訴人両名指定代理人

金沢正公

高梨鉄男

被控訴人向島税務署長指定代理人

酒井保一

中川昌泰

小笠原英之

長尾明吉

被控訴人国税不服審判所長指定代理人

佐々木毅

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「(一)原判決を取り消す。(二)被控訴人向島税務署長が控訴人の昭和四四年分の所得税について昭和四六年三月一五日付でした更正及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。(三)被控訴人国税不服審判所長が昭和四八年三月三一日付で控訴人に対してした前項の更正及び賦課決定についての審判請求を棄却する旨の裁決を取り消す。(四)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人両名は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加、訂正するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一  被控訴人税務署長に対する主張

1  原判決一五枚目表末行の期末たな卸金額につき「三〇万円」を「六五万七〇七八円」と、同表五行目及び裏二行目の各売上原価につき「四三二万七二七六円」とあるのを「三九七万〇一九八円」と、それぞれ改める(従つて、一五枚目表三行目の事業所得の金額もこれに応じ変更される。)。

右の期末たな卸金額六五万七〇七八円の算出根拠は次のとおりである。

(一) 控訴人の営業型態は受注してから糸等の数量を算定して仕入するものであり、これら仕入れた原材料は、一か月位で製品に仕上げられて納品される。そこで、控訴人の期末たな卸金額を、本件係争年の翌年である昭和四五年の期首一か月位の売上(末尾添付の別紙のとおり)、スリービースM判合計一〇七枚、L判合計七九枚について使用された糸から算出すると、一枚当りの糸の所要量はM判一〇〇〇グラム、L判一一〇〇グラムであるので、右合計枚数の所要量は一九三・九〇〇キログラムとなる。そして、糸の単価は、当時一キログラム当り一七五〇円であったから、右糸の価額は合計三三万九三二五円となり、右額が糸の期末たな卸金額である。

(二) 右のほかに次のものが期末たな卸金額に含まれる。

二二万六九七〇円 佐野ニット (甲第三四号証の七)

四万七八八〇円 庄司縫製所 (同第四〇号証の八)

二万二三八〇円 加藤 (同第三七号証の二)

二万〇五二三円 有限会社竹之内穴工業所 (同第三八号証の三)

以上合計 三一万七七五三円

以上(一)、(二)合計六五万七〇七八円

控訴人の期末たな卸金額は、右のとおり六五万七〇七八円であり、これによっても本件更正が取り消されるべきであることは明らかというべきである。

2  控訴人の売上原価率は、実額で把握すると高率となるが、それは、控訴人が婦人オーバーコート類という糸の数量を多く使用するもの、裁断落し部分の多いもの及びワンピース、スリーピースという生地を多く使用するものを受注していたという特段の事情によるものである。

被控訴人税務署長の主張する同業者一三名の売上原価率についても、業者ごとにどんな種類のものを受注するかによって売上原価率は著しく異っているのであり、現に二五・一〇パーセントから五〇・五九パーセントの偏差がある以上、単純にその平均率三九・四七パーセントを基準とすることはできないものというべきである。従って、右平均率三九・四七パーセントと対比して控訴人の売上原価率が著しく高率か否かを判断することは合理的でないのである。

他方、仮に右平均売上原価率三九・四七パーセントを控訴人の売上原価の推計に用いることが合理的であるとするならば、控訴人の売上金額七四一万三三一六円、仕入金額四六二万七二七六円であるから、期末たな卸金額は計算上一七〇万一二四一円にならなければならないこととなる。そうとするならば、たな卸金額は仕入金額の三六・七六パーセントを占め、事業月数七か月のうち、二か月半分の在庫をかかえたことを意味するが、このような異常なことはあり得ないことである。

二  被控訴人国税不服審判所長に対する主張

控訴人は、白色申告をしたものであるが、売上金額が当事者間に争いがなく、売上原価、一般経費についても充分な裏付証拠があり、実額による所得計算が可能な事例であって、同業者比率を利用して推計する必要は全くないものである。しかるに、被控訴人税務署長の段階で更正、異議決定ともに充分な実額調査がなされず、安易に推計におよんだもので、税務行政の不親切、一方的な態度がみられたのである。そこで、控訴人の特殊事情として、胃潰瘍を病み、従業員の大久保勝も未熟練であるところから外注に頼らざるを得ない事情もあわせて、右更正の差益率が高すぎるとして、審査を求めたのである。

しかるに、被控訴人国税不服審判所長は、控訴人の特殊事情については、全く審査せず、また、差益率についても控訴人がとにかく領収書六枚を提示して実額算出のために協力したのに、安易に同業者比率による推計を行なったのみで、控訴人の審査請求の申立内容については審査しなかったもので違法である。

(被控訴人税務署長の主張)

一  控訴人は、「控訴人の期末たな卸金額は翌年度の初め一ヶ月位の製品売上から算出し得る」として、期末の糸のたな卸金額を三三万九三二五円であると主張している。

しかし、右のように算出された金額は、以下述べるとおり、到底前年末日に存在した糸全部のたな卸金額であると言えないことは明白である。

1  控訴人は右算出方法が成立する根拠として、「控訴人は注文を受けてから糸等の数量を算定して仕入をし、仕入れた原材料は一ヶ月位で製品に仕上げられて納品される」という事情を述べている。

しかし、控訴人本人が原審において「大体三月頃夏物のセーターが発注される」と供述しているように、製品の注文は各シーズンの初期に一括して受けていると認められるから、当然それに必要な糸についても各シーズンの初期に一括購入していたはずであり、控訴人が向う一ヶ月間に必要な糸のみを仕入れていたという主張に根拠がなく矛盾を含んで失当であることは明らかである。

2  また、控訴人の「仕入れた原材料は一ヶ月位で製品に仕上げられて納品される」との主張も、仕入れた原材料を加工して製品に仕上げるまでに一ヶ月間を要するという趣旨であるなら、算出された前記金額三三万九三二五円は仕掛品に占める糸の金額でしかなく、未だ製造工程に投入されていない糸についてのたな卸高は完全に除外されることになり、失当であると言わなければならない。

二  更に、控訴人は、昭和四四年中に支払った佐野ニット外三名(合計三一万七七五三円)に対するものは期末たな卸金額に含まれると主張する(右各支払額は、従前、外注費に計上され、争いがなかったものである。)。

その主張の趣旨は必ずしも明確ではないが、右各支払いは昭和四四年分の売上に対応しないから同年分の外注費の金額から除くべきであるという趣旨に解されるところ、控訴人はその主張の具体的な根拠は何ら明らかにしていないのである。仮にその主張が事実であるとすると、期末に仕掛品及び製品が存在していたことになるが、仕掛品及び製品の期末たな卸高はなかったとの控訴人の主張と矛盾しているものと言わざるを得ない。

〈省略〉控訴人の主張する期末たな卸高は、原材料のみを指すのか、仕掛品及び製品も含まれているのか判然と〈省略〉えて、控訴人が算出した期末の糸のたな卸金額三三万九三二五円も何ら根拠を有さない恣意的に算出されたものにすぎず、結局、控訴人の主張する期末たな卸金額は極めてあいまいであり、合理性がないものである。

四  控訴人は、売上原価率が高率になるのは、控訴人が婦人オーバーコート類という糸の数量を多く使用するもの、裁断落し部分の多いもの、および、ワンピース、スリーピースという生地を多く使用するものを受注していたという特段の事情によるものであると主張する。

しかしながら、控訴人が婦人オーバーコート等を受注していたという事実関係が明らかでない上、仮に控訴人主張の事実関係が存していたとしても、それは、以下述べるとおり、売上原価率との関係で「特殊事情」となるものではない。

すなわち、婦人オーバーコート等を製造販売していたとしても、それらの商品の販売が売上原価率を高率にする原因とならないことは業界の常識なのである。逆に婦人オーバーコート等は販売価格が高額となり、売上原価率を低下させるものである。控訴人の主張は理由のないものであると言わなければならない。

なお、被控訴人が本件同業者抽出の一基準とした横編メリヤス製造業者は、すべて婦人用オーバーコート、ワンピース及びスリーピース等をも製造している同業者である。メリヤス製造業界においては、メリヤス製造業者を〈1〉丸編メリヤス製造業者〈2〉横編メリヤス製造業者〈3〉たて編メリヤス製造業者等毎に区分し各業者が組合を設置している(婦人オーバーコート、ワンピース等の製品毎には粗合は結成されていない。)。したがって、被控訴人が本件同業者抽出の基準とした横編メリヤス製造業者が一つの類似同業者であることは明らかであり、被控訴人がその同業者の中から控訴人の営業に近似する規模の同業者を抽出し平均率を求めたことは、極めて合理的であると言えるのである。

五  控訴人は、売上原価は実額で把握し、これによると売上原価率は高率になると主張する。

しかし、前述したように期末のたな卸高が極めてあいまいなのであるから、控訴人の主張する売上原価も確定し得るものではなく、したがって、売上原価率が高率になるというのも何ら根拠のないことと言うべきである。

また、売上原価率が高率にもならないことは、控訴人自らが行った計算からしても明らかである。

すなわち、控訴人の右計算の結果によれば、昭和四五年一年八日から同年二月二日までの間にクレールに納品した製品の製造のために消費した糸の金額は合計三三万九三二五円であるところ、その製品の売上金額合計は一〇四万九四四〇円である(甲第四五号証ないし四九号証)から、製品の売上金額に対する消費した糸の金額割合(以下「糸の原価率」という。)は三三・二三パーセントとなる。

ところで、控訴人の主張する売上原価は大部分が糸の価額であるから、糸の原価率と売上のそれとは近似するはずである。しかるに、控訴人の計算による糸の原価率は右三三・二三パーセントにしかならない。右三三・二三パーセントは、控訴人が売上原価率が高くなる理由の一つとして挙げたスリーピースについて計算したものであるから、右矛盾はより明らかである。

右のことからしても、控訴人が主張するように売上原価率が高率になるということが到底あり得ないものであることは明白である。

ちなみに、右原価率三三・二三パーセントは、これに補助材料費を加味して考えると、被控訴人が主張する同業者一三件の平均売上原価率三九・四七パーセントと近似しており、逆に被控訴人の推計計算が極めて合理的であることを裏付けていると言える。

(被控訴人国税不服審判所長の主張)

控訴人の前記主張二のうち、「従業員の大久保勝も未熟練である」との主張については、大久保勝が控訴人の従業員であったことは認めるが、その余は不知。

「国税不服審判所長は控訴人の特殊事情について全く審査せず」との主張に対しては否認する。

担当国税審判官は、本件審査請求の審理に当たり、「控訴人が胃潰瘍のため入院していたので、その間自ら仕事ができなかったため外注に依存しており、原処分の差益率は高すぎる。」とする控訴人の意見陳述を聴取し、右審査請求に係る主張の追加として実質的に調査審理を行っている。

したがって本件裁決に原告主張のような違法はないことは明らかである。

(証拠関係)

控訴人は、当審において甲第四五ないし第四九号証を提出し、当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、乙第二〇号証の成立は不知と述べた。

被控訴人両名は、当審において乙第二〇号証を提出し、甲第四五ないし第四九号証の成立はいずれも不知と述べた。

理由

一  当裁判所も控訴人の被控訴人両名に対する本訴請求はいずれも理由がないものと認める。

その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  控訴人の被控訴人税務署長に対する請求について控訴人が従前、期末たな卸金額を三〇万円と主張していたのを、当審において六五万七〇七八円と改めたこと等に伴い、原判決の理由説示を次のとおり改める。

(一)  原判決二八枚目裏二行目から三行目の「四三二万七二七六円」を「三九七万〇一九八円」と改める。

(二)  同二九枚目裏五行目の「三〇万円」を「六五万七〇七八円」と、同行から六行目の「原告本人」を「当審において控訴人本人」と、それぞれ改める。

(三)  同二九枚目裏七行目冒頭から三〇枚目裏二行目までを次のとおり改める。

「しかしながら、控訴人は、期末たな卸金額については、従前は三〇万円と主張し、控訴人本人も原審及び当審において原材料たる糸について期末に実際にたな卸を実施して評価した結果、右三〇万円となったとの趣旨に帰する供述をしているのに対し、前述のとおり当審において係争年の翌年期首約一か月の間に納品したとする製品量(末尾添付の別紙のとおり)から逆算して、それに要する糸の量を推計し、右糸の評価額を算出して、これをもって期末たな卸金額の一部と主張するに至ったものである。

右の経過からすると、控訴人主張のいずれを採って真とすべきかは、たやすく断定し難いものというべきである。

しかも、仔細に検討してみると、控訴人が末尾添付の別紙のとおり納品した事実は、当審における控訴人本人尋問の結果によって成立が認められる甲第四五ないし第四九号証によってこれを認定することができるけれども、右製品の納入時期及び控訴人の当審における供述によってみても、右製品が本件係争年の期末において果して控訴人の主張するようにすべて原材料たる糸として存在していたものか、あるいは既に仕掛品ないし製品となっていたものか確定し難く、従ってその額の評価もなし難い(原材料以外のものであったとすれば、糸の評価額のほか補助材料費、労務費等を加えた製造原価がたな卸金額に含まれることとなる。)。

(なお、控訴人は、佐野ニット外三名に対し支払った合計三一万七七五三円を期末たな卸金額に計上すべきである旨主張しているが、右金額は係争年分の外注工費として争いのない二一一万二七六四円の中に含まれているものであることは本件弁論の全趣旨によって明らかであるから、右外注工費の金額がそれ自体としてたな卸資産となるものではない。また右金額を計上したことをもって、右外注工費が期末たな卸資産の製造原価を構成するものとして評価されるべきであるとの趣旨に解せられないでもないけれども、仮にそうであるとすれば、右外注工費は係争年分の売上に対応しないこととなるから一方において同年分の一般経費から除外すべきこととなり、他方、期末たな卸資産として原材料以外に仕掛品ないし製品が存在していたこととなって、従前の主張と矛盾、抵触することになる。いずれにしても、前記金額は、たな卸金額に計上し得ないものである。)

(四)  同三〇枚目裏四行目の「期首及び」を削除する。

(五)  同三〇枚目裏七行目末尾に続けて次のとおり付加する。「控訴人は、控訴人の営業の売上原価率が高率であるのは、控訴人が婦人オーバーコート類という糸の数量を多く使用するものを受注していた等の特段の事情によるものであると主張する。

ところで、前述のとおり、別表三(原判決添付)掲記の同業者につき、その抽出基準として業種の同一性、営業規模の類似性が存し、その他右同業者の抽出に恣意が介在しない等の推計の基礎的条件に欠けるところがない以上、納税者たる控訴人の個別的条件は、当該平均売上原価率を用いることを不合理ならしめる程顕著なものでないかぎり、右平均率算出過程の裡に捨象される性質のものであるから、右平均売上原価率によることを得ない特殊事情の存することが控訴人によって立証されないかぎりは、右個別的条件は、平均売上原価率による推計を妨げるべき事由となるものとはいえず、これを顧慮する必要はないものというべきである。

しかるところ、弁論の全趣旨によって成立が認められる乙第二〇号証(聴取書)の供述記載によると、控訴人と同じく横編メリヤス機を使用しているメリヤス製造業者の場合、一般に売上原価率の高低は、控訴人の主張するごとく製品の種類、原材料の使用量、裁断落し部分の多寡等によっては左右されないものであることが認められる。控訴人本人は当審においてクレールに対する納品価格が一般相場に比して低廉であったことが売上原価率が高率となった原因であるとの趣旨の供述をしているけれども、右供述はたやすく措信できず、他に控訴人の営業に関し前述のごとき特殊事情の存することを認めるに足る証拠はない。

従って、控訴人の前記主張は採用することができない。

控訴人は、また前記別表三掲記のごとく二五・一〇パーセントから五〇・五九パーセントの偏差のあるような同業者の平均売上原価率を用いて推計することは不合理であると主張する。

たしかに、一般的にいえば、比準同業者の売上原価率に著しい偏差のあることは、右同業者の平均売上原価率による推計の合理性を一応疑わしめる原因となり得るものというべきである。

しかし、抽出した比準同業者の業態、営業規模等が当該納税者と微細な点まで酷似していれば、比準同業者が少数であっても、その売上原価率も近似し、これをもってする推計の精確度は高いということができる理であるけれども、その反面、少数の比準同業者の売上原価率によってする推計で足るというためには個別的類似性がそれだけ強く要求されなければならないものである。

ところで、原審証人君塚武郎の証言によると、本件については控訴人のように材料を仕入れて問屋に製品を直納するという業態のものは調査によっても抽出できなかったものであることが認められるから、個別的類似性の高い少数の酷似した同業者比率によって推計することは不可能というべきであり、そうとすれば推計の基礎的条件に適合する可及的多数の同業者を抽出し、その平均売上原価率によって推計するよりほかないものであって、前述のように本件はまさに右のような方法によって推計したものである。

そして、一般に多数の同業者を抽出すればする程、個別的には納税者との類似性は稀薄となり、売上原価率の偏差は拡大せざるを得ないものであるから、本件においては、前述のように比準同業者の抽出が推計の基礎的条件に適合すると認められる以上は、前記別表三のごとき偏差があるとしてもやむを得ないものであり、右のような偏差があるからといって、その一事をもって右同業者の平均率による推計を不合理というべきものではないといわなければならない。

控訴人は、さらに平均売上原価率三九・四七パーセントを控訴人の売上原価の推計に用いることが合理的であるとするならば、期末たな卸金額は計算上一七〇万一二四一円となり、これは仕入金額の三六・七六パーセントを占め、事業月数七か月のうち二か月分の在庫をかかえたことを意味し、このような異常なことはあり得ないと主張する。

なるほど、控訴人の売上金額七四一万三三一六円、仕入金額四六二万七二七六円、期首たな卸金額〇として平均売上原価率によった場合には期末たな卸金額が一七〇万一二四一円と算出されることは、控訴人の右主張のとおりである。

しかし、右平均売上原価率による推計を妨げるべき特殊事情が前述のとおり認められない以上は、むしろかえって、控訴人主張の期末たな卸金額(ただし、前述のたな卸金額と認められない三一万七七五三円を除く。)が少額に過ぎ、そのため右主張のたな卸金額に基づく売上原価率五七・八四パーセント(「期首たな卸金額」〇+「期中仕入金額」四六二万七二七六円-「期末たな卸金額」三三万九三二五円÷「期中売上金額」七四一万三三一六円)が高率に過ぎるとの疑を払拭しきれないのである。

現に、控訴人の主張に即して検討してみても、本件係争年の翌年期首約一か月すなわち昭和四五年一月八日から同年二月二日までのクレールに対する本判決添付別紙記載の納品の製造に要した糸の金額は合計三三万九三二五円であるというところ、前掲甲第四五ないし第四九号証によると右の納品額合計は一〇四万九四四〇円となるから、右売上金額に対する消費した糸の原価率は三二・三三パーセントとなる。これを期中仕入金額の期中売上金額に対する割合とみ、これから試みに控訴人主張の糸の期末たな卸金額三三万九三二五円の期中売上金額七四一万三三一六円に対する割合四・五七パーセントを差引くと、売上原価率は二七・七六パーセントにしかならないことになる。」

2  控訴人の被控訴人国税不服審判所長に対する請求について

控訴人の当審における主張について

右主張は、要するに原判決の認定、判断を非難するに帰するものであるところ、当審における控訴人本人尋問の結果をもってしても原判決の認定、判断を左右するに足らない。

二  よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安岡満彦 裁判官 内藤正久 裁判官 堂薗守正)

別紙

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